林和靖軕は、東軕組(東町・中町)が所有しています。この呼称は現在、「りんわせいやま」となっていますが、以前は「りんかせいやま」と呼ばれていました。

下河原軕組の永代記録によると、この軕は1762年(宝暦12年)に軕の形を整え始め、1772~1780年(安永年間)に整ったとされています。

地元民の通説では、その後、町内の火災で焼失し、現在の軕は、名古屋市伝馬町の山車を購入したとされていますが、記録も残っておらず、詳細は不明です。

この軕の屋根の造りは唐破風造りで前後に鯱が置かれています。

彫刻については、屋根の天井に金箔であしらわれた龍の彫刻が取り付けられ、屋根の四方には前後に「龍」の彫刻、左右に「鶴」を題材とした彫刻が取り付けられています。前軕の前狭間彫刻には、「獅子落とし」を題材とした「巌石落獅子」が試楽・本楽ともに取り付けられ、また、横狭間は、試楽には「麒麟」、本楽には「龍」が取り付けられています。横狭間の彫刻を納める木箱には1763年(元治元年)と墨書きがあります。他にも、前軕正面及び側面には「千鳥」、軕の腰回り四方には波紋様飾り板がはめ込まれています。また、祭礼の運行中のみ勾欄の四隅や前後に「玉獅子」が取り付けられます。この軕の彫刻類の作者はいずれもわかっていません。

装飾品等については、前棚や、日覆の前後、勾欄などいたるところに金具が取り付けられ、軕の腰回りの飾り板の上下部分には青貝塗が施されています。

本楽・試楽の見送り幕は昭和初期に紛失してしまったため、昭和後期~平成にかけて新たに製作されました。この見送り幕は、当地出身の日本画家土屋輝雄(1909~1962年)が非常な熱意をもち構想をされました。しかし、着手を決意した直後に病のため他界したため、日本画家臼杵一穂(1905~1975年)が意志を引き継ぎ、1965年(昭和40年)題名を「雲龍図」とし構想を実現させました。現在、試楽に用いられている見送り幕がこれにあたります。本楽に用いられている見送り幕は、1997年(平成9年)に試楽と同題材のものに金刺繍を施したものです。

水引と大幕は、試楽の水引は注連縄、本楽は綴織で、中国の様子を題材にしたと思われる水引幕となっています。試楽の大幕は黄土色、本楽は赤色の大幕で、生地が緋羅紗地でとても貴重なものです。

そして、この軕の見所はからくり奉芸です。中国の林逋(967-1028年)という人物を題材にしています。林逋は当時の北宋の詩人で、北西湖中の孤山に隠棲し、梅を妻とし鶴を子として過ごしたそうで、西湖の美しい自然を詠じました。林逋の別称がこの軕の名称でもある「林和靖」です。この事実を題材にした屋台、車は少なく、この軕以外では、崑崗台(春の高山祭・高山市)、林和靖車(東照宮祭・名古屋市)のみであり、それぞれ休止中、戦火焼失により、現在は高田の林和靖軕だけとなっています。

この軕には、采振り人形と演目を演じる唐子・鶴・林和靖の4体のからくり人形がのっています。林和靖と鶴のからくり人形の例は他所には少なく、林和靖は現存するものはこの軕のものと、津島秋祭「中町車」のもの(隅田仁兵衛真守作)だけであり、現存はしなくとも確認されているものとしては、前記の同題材を扱っていた2つの車(台)にのっていたものがあります。鶴については、現存するものはこの軕のものだけとなっています。つまり日本で唯一のからくり人形です。なお、現存はしなくとも確認されているものとしては、前記の同題材を扱っていた2つの車(台)にのっていたものと、四日市祭で西袋町が行っていた、「倭姫命」を題材にしたからくり物語のなかでつかわれたものがあります。

この軕の林和靖と唐子は、頭内に「弘化2年 木偶師真守」の墨書が残っており、1845年隅田仁兵衛真守によって製作されたものであることが分かっています。しかしながら、鶴にはそのような墨書はなく、真守作であろうと言われていますが、詳細は不明です。采振り人形に関しては、「文久3年5月」と箱裏に墨書があり、1863年からあることが分かっていますが、作者は不明です。なお、林和靖・唐子の胴体、鶴本体はいずれも、萬屋仁兵衛文造氏、鶴に関してはその弟子であった幾三郎氏も関わり復元新調されています。なお、復元新調以前の鶴は、町内による手作りだったため、保存されていた部品を参考に復元新調がされました。

からくりの物語は、「唐子が花かごに、植物の菜の花を摘み入れる。一方で羽を広げた鶴が、首を伸ばして籠の中を漁る。唐子はそれを見つけて追いかける。林和靖仙人は、微笑みながら、扇子を広げて唐子をたしなめる」という東照宮祭(林和靖車)のものを模写したと言われていますが、当地でもからくりの動きや物語等はっきりしたことが伝わっていませんでした。そこで、2002年(平成14年)に動きや物語等を一度整備されました。しかし、担い手が変っていくにつれ、曖昧になってしまった部分や、2002年に整備されたものでは不十分なところがあったため、2016年(平成28年)に再度整備されました。鶴の巧妙な動きと、唐子との掛け合いは見所の1つです。

お囃子には、能管、締太鼓、平大太鼓、小鼓が用いられます。曲目は「しゃんぎり」、「早神楽」、「本神楽(現在休止長中)」、からくり囃子「林和靖」の4曲です。2016年に岐阜市の能楽師のご協力の下、小鼓を約100年ぶりに正式復活させ、「しゃんぎり」、「早神楽」の笛・締太鼓の運指や打ち手等も整備が行われました。

軕の概要
最大の高さ6.5m、間口2.98m、奥行4.20m

(文責 東軕組 服部憲佑)